34年目の別離

困った。
本当に困った。
産まれてこのかたずっと通ってきた床屋が、今年で終わると言う。
この店は、小学校の同級生の両親が営んでいる。
地道に、堅実に粛々と三人の子供を育て上げた夫婦である。
来年からは、池袋の家を長男であるボクの同級生に託し。
自分たちは田舎でひっそりと年金生活を送ると言う。


散髪を終え、
「今までご苦労さまでした。来年から通う床屋探さなきゃ」
とボクが言うと、
「34年間どうもありがとう。また今度どこかでね」
と多少涙ぐんだように見えるオヤジさんが応える。
オバさんも、小さい目をしょぼしょぼさせて、店を出るボクをずっと見送ってくれた。
手を振りながら店から遠ざかる時にふと思う。
ああ、まともに生きてきた団塊の世代は、こんな風にひっそりと社会から姿を消すのだ、と。
そう思った瞬間に涙が流れた。
だから、それ以降は振り返らずにまっすぐに歩いた。


何事につけ、終わってしまうと言うコトは酷く物悲しい。
とてもセンチメンタルな気分になった。